俺と魚

昨日、俺は魚釣りをするために、浮島つり園に向かった。

浮島つり園は羽田空港の対岸にある。

ひっきりなしにジャンボジェットが飛び交う。

その空の下、俺はつり園の堤防に荷物を下ろし、釣り道具のセッティングを始めた。

先日、Amazonから届いたクーラーボックスには、前もってコンビニで買ってきた冷凍アクエリアスが入っている。そこに海水を注ぎ、冷水を作る。

海面は堤防の数メートル下にあるため、当然、手で水を汲むことはできない。ではどうやって海水を汲み上げるのかというと、先日、釣りの総合ショップである上州屋から買ってきた水くみバケツという先進的なアイテムを使うのである。
ばしゃー。

水くみバケツの海水を、クーラーボックスに注ぐ。そしてクーラーボックスのふたを閉める。

こうして前もって冷水を作っておいて、魚が釣れたらこの冷水につっこむ予定である。冷水につけ込まれた魚は速やかに昇天し、その鮮度はフレッシュに保たれるであろうから。

クーラーボックスのセッティングを終えた俺は、慎重に釣り竿をのばし、仕掛けをサルカンにセットした。

セッティングの途中、何がどうなったのかわからないが、糸が絡んだ。ほどくのに十分を要した。汗が滴り落ちる。

糸をほどき、ブラクリ釣りという特殊釣法のための金属器具を糸の先端に取り付けた俺は、さらにその器具に装着されている鋭い針に、気持ち悪い虫を模したワームを付けた。

前回の釣りで俺は本物の気持ち悪い虫を餌として使った。針を刺された虫が手の中で暴れる感触が蘇る。

「ううっ……」

俺は口元を押さえた。

もう虫は触りたくない、絶対に。

だから俺は上州屋でパワーイソメを買った。

パワーイソメは特殊樹脂で作られた疑似虫餌である。さわやかなブルーベリーの香りがする特殊溶液につけ込まれている。これなら気持ち悪くない。

「……よし」

すべてのセッティングを終えた俺は釣り竿を海に向けた。

太刀魚らしき魚が二匹、悠々と眼下を泳いでいるのが目視で確認できる。

俺はその進行方向上に仕掛けをキャストした。

奇跡的に最高の場所にパワーイソメを送り込むことができた。そもそもブラクリは根魚を釣るための仕掛けなのですぐに海底に沈んでしまう。太刀魚と交差する瞬間は一瞬しかない。

俺のパワーイソメに太刀魚が近づいてくる。俺のパワーイソメを太刀魚がつつく。それが目視で確認できたと同時に振動が糸と竿を通じて伝わってきた。

俺は釣り竿を引き上げた。

竿を引き上げるのが早すぎたのか。

針は太刀魚にかかることなく、俺は何も釣り上げることができなかった。

その日も結局、俺は何も釣ることができなかった。

俺は手の甲で額の汗を拭った。

海は人間の潜在意識の象徴であり、魚はその中に存在する何か有用なアイデアの象徴である。

海の深みに竿を垂れて何かを釣ろうとする行為は、自分の潜在意識に接し、そこから何か素晴らしいものを取り上げようという試みを、シンボリックに儀式化したものである。

だから釣りは意味深い。だからそれは趣味の王様と言われている。

青空の中を白い飛行機がいくつも飛んでいく。

俺は釣り竿をしまうと帰りのバスに乗って自宅に帰った。何も釣れなかったことに不思議な安心を感じながら。

 

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